■レーガン時代に転機の源が
私はたまたま、リベラリズム全盛期の1950年代に米国に留学し、後半はコロンビア大学で学んでいたので、当時の反共リベラリズムの空気を吸って暮らしていたことになる。今日の「ネオコン」の元祖たちは、まだラディカルからリベラルに移って論陣を張っていた。
しかし、国内政策では中央政府が経済の運営に責任をとって繁栄と福祉の向上を目指し、対外政策では対ソ封じ込め政策によって核戦争抑止をはかってきたリベラリズムの政治が、ベトナム戦争での無残な挫折を契機として力を失っていったのに反比例して、保守主義の言論が勢いを得てきた。
1930年代に若きトロツキストだったアービング・クリストルは、元来軽蔑の呼び方として使われた「ネオコン」という言い方をあえて引き取り、今日では「ネオコンのゴッドファーザー」と呼ばれている。80年代に、対ソ連強行姿勢を打ち出したレーガン大統領に共鳴した民主党系知識人の代表的論客になったクリストルは、ニューディール以来のリベラリズムの旗手をもって任じたアーサー・シュレージンガーと、読み応えのある論争を交わしていた。
■2種類の思想生むテキサス
ルーズベルト大統領のニューディール政策の継承を目標としたリンドン・ジョンソン大統領も、現大統領のブッシュも、共にテキサス州出身である。しかし、自分自身テキサス人である政治評論家、マイケル・リンドによれば、テキサスは一つではなく、歴史的・地理的・文化的に大きく異なるテキサスがあるという。一方では、ニューディールからの今日のハイテク産業につながるリベラルな土壌から、ジョンソンのように黒人の権利を守る立法を実現させる政治家が生まれた。
他方、ブッシュの方は、黒人奴隷労働の上に築かれた大農園制の伝統が根強く残り、不法入国移民を低賃金で働かせ、石油採掘とそれにまつわる利権で栄える富裕層を生み出し、宗教も極めて保守的で、ダーウィニズムを受け入れないキリスト教原理主義者が多い部分のテキサスの産物である。リンドの説に従えば、旧約聖書の教えを信奉し、反ユダヤ主義ではあるがイスラエルの存在は認めるキリスト教原理主義者と、ユダヤ系アメリカ人が多い「ネオコン」たちとの、両者の支持の上に立っているのがブッシュ政権ということになろう。ブッシュすなわち米国ということではない。
「米国は化け物を退治するために海外に出て行くことはせず、すべての人々の自由と独立をひたすら願うと、1821年に当時の国務長官、ジョン・Q・アダムズは述べた。ブッシュ大統領に求められるものは、米国外交の伝統の良き遺産を今日に生かし、かつてのケナンやリップマンの賢慮を謙虚に学ぶことであろう。
本間 長世
東大名誉教授(米国史研究)
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