ミュンヘンからノイシュバンシュタイン城への定期観光バスの日本人ガイドNさんを人目見たとき、キザでアクの強い、危ない感じの男性だと思った。

　Nさんはルードヴィヒ二世を心から敬愛していた。ルードヴィヒ二世は、世間一般には現実から逃避し、時代錯誤の城造りに熱中し、国の財政を破綻させた狂王と言われているが、Nさんの見解は違っていた。王の築城は当時の公共事業であり、バイエルン国の経済において重要な役割を果たした。平和を愛するルードヴィヒ二世は、民衆にとっても良い王様だったと言うのだ。だが、世界中が帝国主義へと移り変わる激動の時代、平和と芸術を愛するルードヴィヒ二世の心はあまりにも敏感で、繊細すぎたのだ。ｌ

　後日、Nさんを知る人に聞いたところ、Nさんは20数年前バレエ留学でドイツに渡り、一時は舞台でも踊っていたが、腰を痛めて引退し、ノイシュバンシュタイン城のガイドをしているという。 芸術を愛し、ルードヴィヒ二世の夢の世界に住み、王の友であり下僕である愛すべきNさんは、きっと今日も観光客をあきれさせたり魅了したりしながら、お城で王様への愛を熱く語っていることだろう。